ORRの道路調査報告書:全国の廃道隧道酷道旧道林道を個人が実走調査したレビュー

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棚橋峠(3)

★★★★

 

棚橋峠の前説

全道程の八割が海岸線を辿る海沿いのローカル国道は、地形の悪さも手伝ってそれはそれは大変お粗末な規格で、かろうじて細々と繋がっている道を国道指定してしまったという生粋の酷道だ。道中には当然の如し幾多の難所が待ち構えているが、その中でも最たる物件がここ棚橋峠である事は、この峠道を実走した者であれば異論はあるまい。それも現役時代を知る者であれば言わずもがな。当報告書を執筆している現在でも国道指定されているので一応現役の国道ではあるのだが、新道が開通していない往年の時代を知る者の一人として、ここは是が非でも語っておかねばならない峠のひとつであり、旧道化してから随分と日が経った現在でも全く色褪せずにいる事に感動すら覚える。そんな棚橋峠の今を訪ねてみた。

 

棚橋峠3

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

幅員の割には異常な高さを確保した棚橋隧道。確かに坑門だけ見ればそのように捉えられるのだが、実はその内部は坑門よりも一回り大きく、それも凹凸の激しいテボッチャーであるのだ。勿論コンクリ噴き付けの薄化粧はされている。だがその姿は隧道の内壁というよりも鍾乳洞を見ていると表現した方が正しいとさえ思えるほど人工的とは言い難い形状をしている。

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途方もなく長い年月をかけ自然が織り成した造形美と言いってもおかしくはなく、それは現地を訪れてみれば誰もが納得するはずだ。何故そのような印象を持つのかと言えば、やはりそれも棚橋隧道の形状にある。片面は鐘ヶ坂明治隧道のような幅員に対する異常な高さと古墳の入口にも似た特異な形状をしていた。だがもう片面も尋常でない形状をしているのだ。もうお気付きだろう。それが巨大な鍵穴の形をしている事に。

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反対側は完全なる逆Uの字型であるのに対し、こちら側は所謂馬蹄型と呼ばれる鉄道隧道に多く用いられるそれだ。道路における馬蹄型隧道というのは僕の記憶が確かならば、鉄道からの転用以外に見た事がない。それに単なる馬蹄型ではなく路面から1mほどが垂直になっており、それが鍵穴型という全く新しい形を生み出したのだ。これはデザイナーの意図か単なる偶然か?

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両坑口は同じデザイナーの手によるものなのか?何故道路なのに馬蹄型を採用した?もしや棚橋峠とは軌道跡を利用したものなのだろうか?だが勾配のきつさからそれは無いと思われる。では何故に?恋多き女性に世の男性人が自然と惹かれるように、謎多き棚橋隧道にも自然と人が集り、マニアの間でもその昔から人気スポットとして君臨し続ける棚橋峠。隧道を抜けるとそこには目が覚めるような壮大な風景が待ち構えている。

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大山塊の真っ只中に放り出された自分がいかにちっぽけな存在かを嫌と言うほど思い知らされる。何も無理して百名山とか登る必要はないのだ。棚橋峠は圧倒的なスケールで我々に語りかける。この峠にあってお前はミジンコみたいな存在なのだと。確かにそうだ。握り拳程度の落石にヒットしただけで簡単に逝ってしまうほどの小さな存在。だがその昔恐れを知らない山男達は果敢にこの峠に挑んだ。

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棚橋峠に道を付ける、それはとてつもなく長い時間と想像を絶する労力の集大成で、山肌に引っ掻き傷を付けるようにして、恐らく我々が想像も付かないような途方も無い歳月を要し全通へと漕ぎ付けたのだ。だが文明の利器を利用して我々はほんの数十分で棚橋峠を越す事が出来る。いやもっと言えば新トンネルによりほんの数分で抜けきる事が出来る。

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偉大なる先人達の偉業があったからこそ改良に改良が重ねられ、その功績が認められる形で国道へと昇格、そしてとうとう峠直下に長大トンネルが突かれたのだ。その昔は金魚の糞状態で隊列を組んだ一団が、何組かすれ違うそこそこの交通量があったが、今では棚橋峠に閑古鳥が大繁殖し、かつての活気は完全に失われている。

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