ORRの道路調査報告書:全国の廃道隧道酷道旧道林道を個人が実走調査したレビュー

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矢ノ川峠(5)

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矢ノ川峠の取扱説明書

矢ノ川峠、僕がこの峠に初めて挑んだその日から、かれこれ15年という途方もない月日が経とうとしている。若さという勢いを武器に、全国に点在するありとあらゆる廃道を突破してきた僕の前に激しく立ちはだかったのがここ矢ノ川峠であり、僕はこの峠道で己の無力さと、物事には限界があるという事を学習した。あの日以来寝ても覚めても頭の片隅で矢ノ川峠の情景がチラつき、車両による通行を二度と叶わぬものとしたあの忌わしき落橋現場を忘れ去る為に、かんしゃく玉を道路に撒いた事も一度や二度ではない。時には突発的な衝動に駆られ、友人宅にロケット花火を打ち込んだ事もあった。また時には行きずりのおばんちゃんと寝たりもした。でも忘れる事なんて出来なかった。どんなに遠く離れた場所の峠であろうとも、僕はどこかで別の峠に矢ノ川を重ね合わせた。その後も血眼になって全国を渡り歩き、目を皿のようにして矢ノ川峠に代わる究極の峠を捜し求めるも、これ以上の峠を見つける事なんてできなかった。そして月日は流れ、照準は再び矢ノ川峠に向けられた。たかが15年されど15年、僕が無駄に場数を踏んだのでなければ、今なら矢ノ川峠を車両によって必ずや完全踏破できるはず。勿論ただでは済まないだろう。だが矢ノ川の突破なくしてORRの明日は無い。ワンモアタイム・ワンモアチャンス、帝都から遠く離れた彼の地にあって尚僕の心を掴んで離さない魅惑の矢ノ川峠。いよいよ機は熟した。そして2004年5月27日遂に決戦の火蓋は切って落とされた。

 

矢ノ川峠

道路遺構の調査発掘専門サイト:ORRの道路調査報告書

【コンクリ敷きの区間】

南谷大橋を跨いでからは何か目的を見定めたかのように旧道は一旦離れたはずの現道へと再び近づいてゆく。いくら近代的な技術を手に入れたからと言っても流石に等高線を無視する訳にはゆかなかったようだ。

その先で目にした旧道上初の隧道は、掘削当時のままの状態を維持し、最後の最後まで化粧を施される事はなかった。

但し酷くなる一方の足元だけはコンクリによる簡易舗装が施され若干改善の兆しが見えるものの、やはりそこは必要最低限の処理に止まり、70年も前の姿を露わとしている。

矢ノ川峠

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【落石が目立つ堀割】

旧道上に見る初の短隧道を抜けると心地良い風が頬を伝い、これまでとは明らかに異なる方向からの風向きに、次なるステージに移行した事を強く意識する。

旧日本軍が仕掛けたと思われるケーシー大作戦は隧道単体に止まらない。このような浅い掘割に至っても壁面には特殊な処理の跡が窺える。

堀割に見る瓦礫の山も凄まじく、並みの車両では躊躇するほど両脇には夥しい数の落石が無造作に転がっている。もし路面中央の簡易舗装路がなければ普通車での通過は難しく、これも関係各所が後年に敷き詰めたものだろう。

矢ノ川峠

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【浅い堀割と安定する路面】

そうかと思えば次の瞬間には非常に穏やかな場面が現れたりと路面状況は目まぐるしく変化する。

矢ノ川峠が今でも人が住まう峠であるならばもう少しまともな整備が成されたはずであるが、この峠には電力会社や電話会社などの所謂業者が時折訪れるだけで、使用頻度の低さは整備状況にも反映される。

従ってこの峠道にもしも普通の道を求めてノコノコとやってきたとしたらそれは大間違いで、現在の矢ノ川峠は林道以下と言っても過言ではない悪路なのである。

矢ノ川峠

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【旧道から見る現道の覆道】

巨大な堀割や隧道に続き旧道上にはその他にも小さな掘割など昭和独特のダイナミズムな削岩の跡が生々しく残っていて見る者を全く飽きさせない。

掘削技術ひとつとっても目を凝らせばまだまだ幾らでも興味深い遺構を拾い上げる事ができる矢ノ川峠は、昭和初期の道路遺構の宝庫である。

現時点で全てが掘り起こされた訳ではないし、細かい発見やそこから明らかとされる新事実など歴史を覆すような発見もあるに違いない。

矢ノ川峠

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【安定した路面と離合可能な膨らみ】

単なる砂利道として楽しむのも構わないし、歴史歴考察を追求するのもいいだろう。観察力に応じて七変化する峠道、単調であって単調でない古道、だから矢ノ川は面白い。

旧道上でふとエンジンを切れば下界から聞き慣れた雑音が耳に届いた。見れば眼下には現道の姿が見える。耳障りな雑音はここまで容赦なく漏れ届き、昭和初期のレトロチックな雰囲気に酔いしれたい僕を否応無しに現実へと引き戻そうとする。

一刻も早くこの場から立ち去らねば。現道の呪縛から逃れるべく僕は足早に駆け抜けるも、三段ボックスの過積載で突撃した事を後悔するセクションへと突入する。

矢ノ川峠

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【河原状となった悪路】

元国道にあるまじきガタボロダート!ってかズタボロダート!ってかダートの象徴である砂ねーじゃん!

どこの干上がった川かって感じであるが、これが矢ノ川旧道の真実の姿みーたーいーな。

矢ノ川峠

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【悪路と用途不明な広場】

ってか一時期は国道42号線を名乗った事もある国の根幹を成す主要国道だったみーたーいーな。この上を沢山の乗客を乗せたボンバスが毎日行き来してましたみーたーいーな。

石の大きさが握り拳大ならまだ救われるが、大半がフットボールかサッカーボール大で、近年の矢ノ川峠は普通車をも通さなくなったと言われる所以がこの大荒れの区間にある。

ここもいずれ舗装されるかも知れないが、僕はこの時廃れた道のどれもが辿る真実の瞬間を垣間見た気がした。

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