ORRの道路調査報告書:全国の廃道隧道酷道旧道林道を個人が実走調査したレビュー

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谷坂隧道(1)

★★★★

 

谷坂隧道の取扱説明書

高度経済成長と共に個性的な隧道は姿を消し、代わりに出現したのが画一的なコンクリ隧道である。コンクリそのものは昭和初期から使われだしてはいるが、当時は現代と違ってそれまでの流れを汲んだもの、或いは西洋から新たに持ち込まれたデザインなど、バラエティに富んだ個性派隧道が乱立し、それは自由気ままで華やかな時代であった。谷坂隧道もこれまでにはない斬新なデザインで、当時の人々を驚かせたと同時に、それは隧道史に残る名作となって現代へと引き継がれた。そして今も谷坂隧道は現役の道として機能しているのだ。

 

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ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

郷野湖北線と小室大路線の二つの県道は交わるや否やそれまで長らく続いた平地の水田地帯から、一転して曲がりくねった坂道を迎える。この先の峰を越えんとすべく登坂を開始するも、二度三度のカーブを経て間もなく息切れし、あっさりと峰越えを断念した県道。その先に見えるはターゲットの谷坂隧道である。1.5車線とは言え普通車同士の離合なら難なくこなす県道は何者にも邪魔される事なく真っ直ぐに谷坂隧道へと導かれる。

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隧道の真上に目をやれば、そこには非常に緩やかながら、素人目にもはっきりと認識可能なV字曲線が描かれている。谷坂峠から視点を下げれば、そこにはやや古ぼけた隧道がぽっかりと口を開けている。もうどれくらい経っているのだろう、坑門手前に設置された高さ制限標識も随分とお疲れ気味である。植生が著しく何もかもが緑に覆われんとする中で、谷坂隧道の坑門だけが何とか勢いを増す緑の侵食を食い止めようと孤軍奮闘していた。

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それでも全体像を掴むにはいささか不十分で、鼠にかじられた絵画の如し、繁殖力旺盛な植物のお陰で、絵的に隧道としての価値は半減以下である。ちょっとしたタイミングを逃すとこうなるという典型的な例だ。単なるコンクリ隧道、ハズレか。遠目からは確かにそう思えた。だが近づいて見るとなかなかどうして、最初の印象とは異なり個性的な面構え、それもなかなか魅力的な物件である事が判明した。

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あまり見慣れぬ風貌であるが、それもそのはず建築様式がこれまで見てきた物件とは全く異なるのだ。パッと見はコンクリ製のようであるが、どうやら全てがそうではないようだ。半円形をした門柱は型枠にドッカンドッカンコンクリを垂れ流して固めた形跡が見られ、表層もどういう手法か定かでないが、職人技が駆使されたという雰囲気は伝わって来ず、そこに人肌の温もりのようなものは感じられない。

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だが扁額とリングアーチだけは別だ。加工されてはいるがそれはデジタル的でなく、また無機質なものでもない。限りなく自然に近い形の、そうそれは紛れもない石である。坑門断面の大半がコンクリ仕様にもかかわらず、そこにあえて石を配置した。また笠石下のディンテルと呼ばれる歯状紋も現代のトンネルでは考えられない仕様となっている。

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当時はこのようなアナログチックな細部のディテールにも設計者や職人の拘りがあったのだ。そうして外観はそっくりだが、細かい部分で相違のある世界にひとつだけの隧道が当たり前のように存在していた。一歩中へと踏み込めば、オレンジとホワイトの二色で、道行く人々の足元を照らし、それが谷坂隧道に出来得る最高のおもてなしである事は明白であった。

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そこに突如静寂を切り裂く轟音が鳴り響く。交通量は想像以上に多く、平日の日中にもかかわらず、僅か15分足らずの間に5台の車両が行き交った。途中1回だけチビダンプと商用のワゴン車がはち合うも、彼等は谷坂隧道の作法を心得ているらしく、両車共に坑門前で停車した。

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