ORRの道路調査報告書:全国の廃道隧道酷道旧道林道を個人が実走調査したレビュー

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美笛峠(2)

★★★★★

 

美笛峠の取扱説明書

「びふえ」初めてこの峠に挑んだその日から、2006年の今日現在に至るまで、僕はこの峠をずっとびふえ峠と呼んできた。勿論それが正式名称でない事は「長万部=おしゃまんべ」の例を持ち出すまでもなく分かりきっている。難読地名の宝庫である北の大地でアイヌ語を無理矢理宛がった漢字から、ここをピプイ峠と物の見事に言い当てるのは九分九里不可能である。ピプイという響きからは何も想像できないが、びふえという言葉は率直に美しい笛を単純に脳内に描かせる。現に緑一色の深山に一際輝く白い縦笛が浮かぶ姿は、廃道内における一服の清涼剤と言える。向かいの谷で美しい音色を奏でる美笛滝をよそに、ここでは悲鳴に怒号に溜息に吐き気といった、具合が悪くなる一方の、ある意味非常に美味しい展開で、皆様のお越しを心よりお待ち申し上げておられる美笛峠。その美しい名称とは裏腹に、余りにも凄まじい現場の状況から、ショックで心肺停止も無きにしも非ずというドクターストップ寸前の突破行から早数年。長い沈黙を破り僕は再び北の大地に帰ってきた。経年劣化した廃道の五線譜には今どのような音符が並べられ、またどのようなメロディを奏でるのだろうか?再びあのマックスポイントが死の旋律を奏でるのだろうか?そこに見るは果たして協和音かそれとも不協和音か。へなりカンタービレが美しい笛に隠されたこの峠の真実の姿に迫る。

 

美笛峠2-1/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

高さこそ頂まで容易に駆け上れるほどの低い切り通しではあるが、その幅員は大型車同士の離合を許す壮大なスケールで、下草さえ刈り取ればいつ大型トレーラーが現れても不思議ない規格である。それでもノーメイクで地肌丸出しの法面は、ここがかつての国道と知る者の目から見れば、やはり旧道の域を出ない一時代前の産物であり、砂利敷きのままその生涯を終え今に至って

美笛峠2-2/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

いる点と合わせて、探索者を惹き付けて止まない魅力的なポイントのひとつとなっている。一旦は峠に対し背を向ける形で低い稜線へと取り付いた旧道は、最適と思われるウィークポイントを掘り割って、その身を隠すようにして薄暗い隣の谷筋から峠へ繋ごうという算段だ。日陰に入ると植物の猛威もやや鳴りを潜め、そこには軽自動車が一台割って入るだけのスペースが辛うじて保たれて

美笛峠2-3/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

いた。急激に足元の視界が開けると同時に、僕はすぐさま何者かの痕跡を路面に見出したが、小動物の足跡らしきそれは僕を酷く落胆させた。やっぱりこんな薮道に車両はおろか人さえも興味本意で入り込もうなどと思うはずはないだろうし、例え常時ゲートオープンであったとしても、常識ある現地人であれば無用に近づきやしないのだ。もしもこの界隈を熟知する者ならば襲い掛かる巨大

美笛峠2-4/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

動物を一発で仕留められるよう最善の策を持って入山するのは間違いなく、ここは僕のような一介のツーリングライダーが安易に足を踏み入れる領域ではない。一見コンクリを吹き付けたかのような滑らかな法面が左に現れ、そいつに見とれて一瞬油断するも、その直下には大きなクレパスが口を開けて待っていた。四輪では高橋レーシングをもってしても無理なほど逝ってしまっている

美笛峠2-5/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

その現場は通常ならば単車でも躊躇するほど難儀なセクションであるが、この旧道のなんたるかを勝手知ったる僕は、黒いグラサンをポッケから取り出すと「関係ないね!」と言い放ち道床の95%が失われた一本橋を素早く駆け抜けた。流石に三段ボックスが重過ぎたか、速度が鈍った時にはあわやクレパスの餌食かとヒヤリハットであったが、その場は何とか凌いだ。勿論対岸へ渡り

美笛峠2-6/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

切った後は、地面にピストルを無駄に撃ち込みスキップする事は忘れない。わ〜たしの記憶が確かならば、この第一関門を突破すればしばらく平穏な状況が続くはず。隆起する壁面は更に険しさを増し、反り上がるようにしていきり立ち、太陽光を過渡に遮断している。路面上には小石がまばらに散乱している程度で安定しているが、それがかえって大崩落の前の静けさのように思えて何とも

美笛峠2-7/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

不気味なのである。ここは単なる旧道ではない。いつ逝ってもおかしくない伸るか反るかの廃道なのだと肝に銘じ、再び地面にピストルを無駄に撃ち込む事で己の襟を正した。薄暗い谷筋にもここに来てようやく陽の光が差し込み、沈んでいた緑の絨毯もすっかり色鮮やかに映え渡った。

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