ORRの道路調査報告書:全国の廃道隧道酷道旧道林道を個人が実走調査したレビュー

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美笛峠(3)

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美笛峠の取扱説明書

「びふえ」初めてこの峠に挑んだその日から、2006年の今日現在に至るまで、僕はこの峠をずっとびふえ峠と呼んできた。勿論それが正式名称でない事は「長万部=おしゃまんべ」の例を持ち出すまでもなく分かりきっている。難読地名の宝庫である北の大地でアイヌ語を無理矢理宛がった漢字から、ここをピプイ峠と物の見事に言い当てるのは九分九里不可能である。ピプイという響きからは何も想像できないが、びふえという言葉は率直に美しい笛を単純に脳内に描かせる。現に緑一色の深山に一際輝く白い縦笛が浮かぶ姿は、廃道内における一服の清涼剤と言える。向かいの谷で美しい音色を奏でる美笛滝をよそに、ここでは悲鳴に怒号に溜息に吐き気といった、具合が悪くなる一方の、ある意味非常に美味しい展開で、皆様のお越しを心よりお待ち申し上げておられる美笛峠。その美しい名称とは裏腹に、余りにも凄まじい現場の状況から、ショックで心肺停止も無きにしも非ずというドクターストップ寸前の突破行から早数年。長い沈黙を破り僕は再び北の大地に帰ってきた。経年劣化した廃道の五線譜には今どのような音符が並べられ、またどのようなメロディを奏でるのだろうか?再びあのマックスポイントが死の旋律を奏でるのだろうか?そこに見るは果たして協和音かそれとも不協和音か。へなりカンタービレが美しい笛に隠されたこの峠の真実の姿に迫る。

 

美笛峠3-1/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

この先カーブ有りや待避所近しを知らせる標識類が当時のままの姿で現存しており、この地点に至る過程で既に三つも四つも視界に飛び込んで来ている訳だが、極寒の地の積雪5mはあろうかという豪雪地帯において、ノーメンテという悪条件ながらよくもまあ今日まで自然淘汰の網の目を掻い潜り、生存競争を勝ち抜いてきたものだと感心する事しきりである。カーブミラーや青看などを

美笛峠3-2/ORR

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含めそれら付帯設備は自然界とは一線を画した完全なる人工物ではあるけれど、元を辿ればそれらも自然界に存在する金属類なのであって、風雨に晒され錆びて酸化鉄と化した沿道の人為的構造物達は、役目を終えると同時に長い時間をかけて朽ち果て、やがて土へと還って行く。それらは人の手によって姿形を変えられただけの天然素材なのであって、本来あるべき場所へと

美笛峠3-3/ORR

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戻り行く姿は至極自然な事である。今でも沿道に多くの標識類が見られ、下草さえ綺麗に刈り取ればすぐにでも国道として息を吹き返しそうな旧道。異常とも思えるほど従順な立ち振る舞いの標識類の多くは、息絶えるその日まで二度と通る事のない車両に対して、己に課せられた任務を松任せんとする姿勢に、見習うべき点は多い。彼等は人間のようにちょっとした事で手の平を返す

美笛峠3-4/ORR

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ような事はない。錆び付こうが傾こうが、文句一つ言わずに今日もただただ黙々と直立不動で与えられた職務をこなすのみである。彼等を産み落としたはずの主はとっくの昔に見捨てているのにだ。そこに悲壮感が漂うなどと言ったパッと見だけの無味無臭な感想など邪道だ。何事にも動じない、ちょっとした事にも左右されない質実剛健という我々日本人が久しく忘れていた美徳への

美笛峠3-5/ORR

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郷愁が湧き起こり、まるで禅寺で和尚に一喝され心の中の濁った眼が洗い流されるような心境であった。道路遺構群による叱咤激励は、廃道調査の更なる原動力となって還元された。巨大なクレパスを過ぎてから再び旧道は平穏を取り戻したかに見えたが、斜面に生える植物と同等の密度で路面に植生するフキやら何やらが僕を青汁まみれにしてくれ、衣服の迷彩塗装化は着々と

美笛峠3-6/ORR

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進行していた。これならヒグマも素通りさ!じゃねーよ!と劇団へなりは廃道内においても稽古に余念がない。四輪も楽勝で通れるほどの林道規格を保つ良好な区間が出現したかと思えば、すぐに猛烈な薮の壁が立ちはだかり、容赦なく僕を失意のどん底に叩き落とすといった浮沈を繰り返す旧道。緑一色の画一的な特徴の少ない区間を抜けると見覚えのある壁面に出くわした。それまで

美笛峠3-7/ORR

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とは明らかに異なる硬質な斜面。ショベルカーのバケットでガリガリ削ったかのような凹凸の少ない茶色い壁面は、しばしば致命的な崩壊を引き起こす土質斜面とは異なり、まるでコンクリートのような安心感がある。それでも足元には頭大の石が無数に転がり、予断を許さない状況は続く

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