ORRの道路調査報告書:全国の廃道隧道酷道旧道林道を個人が実走調査したレビュー

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美笛峠(7)

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美笛峠の取扱説明書

「びふえ」初めてこの峠に挑んだその日から、2006年の今日現在に至るまで、僕はこの峠をずっとびふえ峠と呼んできた。勿論それが正式名称でない事は「長万部=おしゃまんべ」の例を持ち出すまでもなく分かりきっている。難読地名の宝庫である北の大地でアイヌ語を無理矢理宛がった漢字から、ここをピプイ峠と物の見事に言い当てるのは九分九里不可能である。ピプイという響きからは何も想像できないが、びふえという言葉は率直に美しい笛を単純に脳内に描かせる。現に緑一色の深山に一際輝く白い縦笛が浮かぶ姿は、廃道内における一服の清涼剤と言える。向かいの谷で美しい音色を奏でる美笛滝をよそに、ここでは悲鳴に怒号に溜息に吐き気といった、具合が悪くなる一方の、ある意味非常に美味しい展開で、皆様のお越しを心よりお待ち申し上げておられる美笛峠。その美しい名称とは裏腹に、余りにも凄まじい現場の状況から、ショックで心肺停止も無きにしも非ずというドクターストップ寸前の突破行から早数年。長い沈黙を破り僕は再び北の大地に帰ってきた。経年劣化した廃道の五線譜には今どのような音符が並べられ、またどのようなメロディを奏でるのだろうか?再びあのマックスポイントが死の旋律を奏でるのだろうか?そこに見るは果たして協和音かそれとも不協和音か。へなりカンタービレが美しい笛に隠されたこの峠の真実の姿に迫る。

 

美笛峠7-1/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

死の旋律を奏でるこのマックスポイントは、木々の隙間から現道の様子が手に取るように分かる。ダンプの背後に金魚の糞のように連なる車列の一団、水を得た魚の如し気持ちよさそうに車体を大きく倒してコーナーへ入る単車。そこには死の恐怖とは無縁の自由な世界があった。僕はつい数時間前まで彼等と同じ世界の住人であった。直線距離にして彼等とは500mと離れては

美笛峠7-2/ORR

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いない。なのにここでは生命の保障に関し当局は一切関知しないし、またここを五体満足で抜けられたとしてもメリットなど何も無いというあからさまな不平等条約に調印しなければならないのだ。樹海の間を縫うようにして疾走する下界の自由な世界に対し、ここは窮屈で理不尽なほど障害物に行く手を阻まれる最も不自由な世界。二つのルートは片やトンネルで片や鞍を跨ぎ、相

美笛峠7-3/ORR

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まみれる事無くそれぞれの時代に見合った、姿形の異なる美笛峠を目指すが、今では天と地ほどの差の開いた両者にも、へその緒と呼べる接点がある。それがこの分岐点より現道の滝笛トンネル手前へと繋がる廃作業道だ。白看が設置された当時はまだこのダート国道が現役で、新道建設に伴う工事車両専用道路へ一般車両が入り込まぬよう注意を促している。工事中は積極的に

美笛峠7-4/ORR

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利用された工事専用道路は、今猛烈な薮に没し静かな眠りについている。だが路面の実に90%以上を失った国道の踏破を断念する場合、最良のエスケープルートと成り得るのがこの廃作業道なのだ。実幅が30cmを割り込み、歪んだ路面に垂直に落ちる1m強の路肩は、心臓によろしくない仕様で、僕は一度突き出た岩にステップがヒットし落ちかけた事がある。こうした場面で崖側に

美笛峠7-5/ORR

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身を乗り出して通過する人は稀で、大概は恐怖心からなるべく岩側へ車体を傾かせる。だがその傾斜も度が過ぎると当然の如く岩と接触する。それはほんの些細なヒットなのだが、車体が垂直に直立するだけなら何とか持ち堪えられギリギリセーフであるが、1%でも反転しようものならゆっくりと崖へと倒れ込むのである。そう、あの日も僕は素早くこの難関を通り抜けようとして焦った。その

美笛峠7-6/ORR

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焦りと恐怖心が必要以上に車体を岩側へと傾かせ、岩の先端にステップがヒットした車体は、一転して崖側へと静かに傾き始めたのだ。それはまるでスローモーションのようであった。路肩ギリギリにつき踏ん張る側の足場は空中で、それにただでさえ車高の高い先代のXRでは弱り目に祟り目である。こうした状況下では声も出ず、事の成り行きに身を任せるしかない。その時である。

美笛峠7-7/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

どこからともなく救いの手が差し伸べられ、僕は一命を取り留めた。撮影に徹していたロリエさんが、ファインダー越しに見る僕の微妙なバランスの変化を逸早く察知し、慌てて駆け寄ってきて事無きを得たのだ。週に一回はシコっている彼の汚れた右手も、その日ばかりは神の手に見えた。

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