ORRの道路調査報告書:全国の廃道隧道酷道旧道林道を個人が実走調査したレビュー

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美笛峠(9)

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美笛峠の取扱説明書

「びふえ」初めてこの峠に挑んだその日から、2006年の今日現在に至るまで、僕はこの峠をずっとびふえ峠と呼んできた。勿論それが正式名称でない事は「長万部=おしゃまんべ」の例を持ち出すまでもなく分かりきっている。難読地名の宝庫である北の大地でアイヌ語を無理矢理宛がった漢字から、ここをピプイ峠と物の見事に言い当てるのは九分九里不可能である。ピプイという響きからは何も想像できないが、びふえという言葉は率直に美しい笛を単純に脳内に描かせる。現に緑一色の深山に一際輝く白い縦笛が浮かぶ姿は、廃道内における一服の清涼剤と言える。向かいの谷で美しい音色を奏でる美笛滝をよそに、ここでは悲鳴に怒号に溜息に吐き気といった、具合が悪くなる一方の、ある意味非常に美味しい展開で、皆様のお越しを心よりお待ち申し上げておられる美笛峠。その美しい名称とは裏腹に、余りにも凄まじい現場の状況から、ショックで心肺停止も無きにしも非ずというドクターストップ寸前の突破行から早数年。長い沈黙を破り僕は再び北の大地に帰ってきた。経年劣化した廃道の五線譜には今どのような音符が並べられ、またどのようなメロディを奏でるのだろうか?再びあのマックスポイントが死の旋律を奏でるのだろうか?そこに見るは果たして協和音かそれとも不協和音か。へなりカンタービレが美しい笛に隠されたこの峠の真実の姿に迫る。

 

美笛峠9-1/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

峠に至る直線の掘割とサミット付近だけは、最盛期でも薮の繁殖は免れ、地肌が露わとなった姿は、この上ない安心感を僕にもたらした。ここは単なる山の一角なんかじゃない、かつての国道なんだと言い切れる確固たる道路遺構群が、今でも実在した事は素直に嬉しかった。だがその掛け替えのない存在が真っ向から否定されかねない不測の事態が、峠より先の下りに待っていた。

美笛峠9-2/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

本来ならば白樺とトドマツに囲まれたルンルン気分の爽快な高原であるはずなのに、そこは入山して以来最も密度の濃い笹薮によって支配され、生きとし生ける者全ての通行を一歩たりとも許さない極悪な区間であった。明らかに前回とは状況が異なる。足元はほとんど見えない。それに泥田と化して路面は必要以上にぬかるんでいて、低速だといつ嵌り込んでもおかしくはない。

美笛峠9-3/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

それに太さ15cmはあろうかという倒木が何本も行く手を遮り、その都度迂回もしくは荷物を一旦全部バラしての丸太越えを余儀なくされる。何なんだこれ?自分の脳内では既にエンディングテーマが流れ始めているというのに、最後の最後で厄介な障害物を用意してくれた美笛峠を不快に感じた。それはどうしても前回や前々回はもっと楽に抜けられたという心象が強く、過去の記憶と

美笛峠9-4/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

照合してしまうからに他ならない。図鑑に載ってないような昆虫類をも身に纏い、僕は強引に薮の大海を割って出た。そこには見覚えのある車道が待ち構えていた。下草は充分過ぎるほど丁寧に刈り取られ、かつての6m幅いっぱいいっぱいに広げられた車道は現在、車両の転回場所として機能していた。ここへ来るたびに毎回思うのだが、峠には大型車も余裕を持って転回可能な

美笛峠9-5/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

広大な敷地が用意されているというのに、何故峠まで下草を刈り取らずに、このような中途半端な場所で終点を迎えているのかと。事実上車両の限界地点となっているこの場所から美笛峠はもう目と鼻の先ほどの至近距離にある。なのに何の変哲もないこの場所であたかも道が途切れているかのように処理されているのが何とも不可解なのだ。意図的に峠の存在を隠すような処理と

美笛峠9-6/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

言ったら言い過ぎだろうか?天然の笹薮はそのまま放置すれば格好の壁となって、侵入する者をことごとく拒む。その証が足元に痛々しいほど深く刻み込まれていた。かつて僕とは逆側から進入した者が、一度は意を決し薮の大海へと身を投じたものの、並み居る倒木群の前でリタイアした単車が、薮下の泥田でもがき苦しんだ跡が、はっきりと残されていたのだ。その生々しい痕跡は、ここ

美笛峠9-7/ORR

ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

数週間或いは数日内に刻まれたものと思われる。もしもその単車の主と偶然廃道内で接触したとしても、僕なら彼の身を案じ、引き返す事を勧めるだろう。最初の倒木で直ちに撤退した彼は、賢明な選択をしたと言わざるを得ない。引き際を見極める事も、勇気ある行動のひとつなのだから。

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