ORRの道路調査報告書:全国の廃道隧道酷道旧道林道を個人が実走調査したレビュー

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観音坂隧道

★★★

 

観音坂隧道の取扱説明書

その外観は思いの外美しく、細部に渡るディテールも文句無しの逸品で、国宝級とまではいかないが、県の重要文化財なら指定されても良いと思える程の容姿端麗な坑門を持つ観音坂隧道。最早その姿は単なるトンネルというよりも、一般的な観光雑誌やガイドブックに掲載されるような寺院や城といった史跡群と肩を並べる程の実力で、今はどこにでもありそうな隧道という扱いだが、いずれは近代道路遺構として正当な評価が下される日が来るだろう。

 

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ドライブ&ツーリングのネタ帳ORR

全国津々浦々の道路という道路を徘徊し、結果的に僕は旧道や廃道に対する嗅覚が研ぎ澄まされ、走り出しの頃よりは貴重な道路遺構を見逃す確率もぐっと少なくなったし、デジカメの進化に伴ってどんな些細な情報でも記録するようになった。お陰で二度三度と現地へ足を運ぶ事も少なくなったが、旧廃道に神経を集中するあまり、現道の確認を怠り重要な物件を見過ごすというポカが多くなった。

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全く初歩的なミスであるが、実は当該物件もそのくちである。もう何年も前の、まだ僕の名刺に道路格闘家の文字が躍っていなかった頃(←この人名刺など持ってません。繰り返す。この人名刺刷るお金すらありません。もっと言えば社会的信用ゼロの為、ローンすら組めません)一度この観音坂隧道を通過しているはずだが、全く記憶にございません。

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従って初めて通る道の如し新鮮な気持ちと、事前情報を持ち合わせないフラットな状態で挑めた事は、邪念の入らぬ純粋な報告書を作成する上では、まさに願ったり叶ったりの展開であった。観音坂と呼ばれるだけあって長くダラダラと続く坂道。山肌に沿って上昇し続けるその坂道がやがて左へ90度近い弧を描くと、そこにはぽっかりと口を開けた隧道があった。勿論観音坂が峰越えではなく隧道によって抜けている事は、地図上で知り得ていた。

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だがそれほど山深くもない郊外の外れに位置するという立地条件と、国道同士を結ぶ連絡道としての役割、更に現役の県道という肩書きが邪魔をして、僕はまたしても観音坂隧道を素通りしようとしていた。それに拍車をかけたのが坑門全体をびっしりと覆う植物の存在だ。上部からその8割方を覆われ、何がなんだが判然としないその姿に僕は躊躇する事なく一目散に洞内へと潜り込んだ。

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アーチがブロック状になっていたのが気にはなったが、内壁は完全なコンクリ巻きであったし、交通量の多さも手伝って、僕は車の隊列に逆らう事なく一旦は隧道から吐き出された。だが最終確認としてバックミラーに映った坑門の姿を見て僕はハッとなった。そして隊列からひとり離脱して緊急停車と相成った。朝のラッシュ時はもうとっくに過ぎているはずだが、上下線共に激しい交通量で、その流れは止まる事を知らない。

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現道の調査ほど危険なものはないが、僕は意を決して観音坂隧道の調査に着手した。小走りで坑門に近づくと外観はあれと瓜二つであった。またあれにも似ている。恐らく同じデザイナーの手によるものだろう。石積みのようなコンクリのような見る人が見ないと判別できない微妙な坑門だが、とにかく設計だけは拘りが覗え大正から昭和初期にかけての坑門の装飾が最も華やかだった時代の、当地を代表する逸品である事には違いない。

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尚画像からは人っ子ひとりいないような旧道状態に見えるかも知れませんが、当物件は現役の県道でしてムチャクチャ交通量の激しい大変危険な場所であります。何度も轢き殺されかけ、クラクションを鳴らされ、空き缶を投げつけられた賜物である事を強調しておきます。

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